”居る” から ”暮らす” へ

角輪工業有限会社(ヤマネコ荘)

山根卓也さん


 

趣味を楽しむ部屋にしたい、、オシャレな部屋にしたい、、

1人暮らしを始めた頃に一度でも、自分が住む部屋を好きなようにアレンジしたい衝動に駆られたことはないだろうか。

従来の賃貸物件では制約の多いDIY。

もし壁紙を自由に決められたり、穴をあけても大丈夫な物件があったとしたら、、

 

今回は、そんな理想を形にした『ヤマネコ荘』を運営する『角輪工業有限会社』の

山根卓也さんにお話を伺いました。

 


インテリア雑誌を見て試行錯誤した学生時代

 

「学生のときは、終電で遊びに行って始発で帰ってくる4年間でした(笑)」

学生時代はほとんど勉強しなかったという山根さん。とにかく遊びに熱中した。

 

もうひとつ熱中していたことが部屋をかっこよくすることだった。自分にとっての理想の部屋を作るために、インテリア雑誌を見ながら試行錯誤を繰り返していたという。

 

「部屋をかっこよくするために色んなことを試したが、全然かっこよくならなかった。そのときの経験がヤマネコ荘をはじめた理由になっています。入居者にかっこいい部屋を作れる場所を提供してあげられたら、と思って。」

 

 

理想を形にできる賃貸住宅『ヤマネコ荘』ができるまで

 

神戸での学生時代を経て、大阪で不動産会社に就職したが、違和感のある日々だった。

「『かっこいい部屋、魅力的な部屋がこんなに無いの!?』と思っていた。雑誌を見たら都市部にはすごくかっこいい部屋があるのに、『そんなのこの辺で見たことないぞ?』と思ったり。」

 

 

それ以上にイヤだったことが、貸主(大家、管理会社、不動産会社)と借主(住人)の関係が希薄だったこと。そのことに起因するトラブル処理に戸惑った。

 

「古くなると建物や設備にトラブルが起こりやすいので、クレームが絶対に出る。どちらが悪いわけではない案件でもそれは同じで。お互い顔も知らないから貸主は平謝りするしかないし、借主はそれに怒りをぶつけるしかない。すごくやりにくい仕事で、賃貸の仕事をすることが大嫌いだった。」

 

 

 

さらに山根さんは、人の出入りが激しい賃貸住宅と近隣地域との関係について指摘する。

 

「従来の賃貸住宅って、近隣の人たちに嫌われがちなんですよ。人が変わるし誰かよく分からない人がいるし。ゴミ捨てとかが雑だったりとか。」

 

 

 

不動産業の難しさに直面した山根さんは、25歳のときに鳥取にUターンした。角輪工業に入社後『ヤマネコ荘』を立ち上げることになる。

 

 

みんながやらないことをやる

 

「うちはいい看板のある会社ではない。CMをやっているような大手企業と正面からぶつかっても勝てないんです。それだったら視点を変えて、面倒なコミュニケーションの取り方で勝負してやろうと思って。」

 

 

入居者へ理想の部屋作りの場を提供することに加えて、貸主と借主、さらには近隣地域との関係性の確立を目指した山根さん。参考にした事例はあったのだろうか。

 

「7~8年前から都市部で少しずつ始まっていたものを参考にしました。人口がいるところではできるかもしれないけど、鳥取ではできるのかな?と気になっていて。50世帯も面倒を見るわけではないし、8~9人くらいだったら『自分の弟妹ができたぞ!』みたいになるかと思い、やり始めました。」

 

 

 

ヤマネコ荘には、いったいどんな人が入居してくるのか。

 

「入居しないか、とナンパしたこともありましたね(笑)」

「今はいろんな職種の人がいます。大学生の他に、公務員、建築、不動産、自営業など。」

 

 

「完全にオフな状態の社会人の話を聞くのって、大学生にとっては面白いと思う。リアルな部分が顔色で分かる。そんなに仕事つらいんですか、とか(笑)」

 

 

 

『ヤマネコ荘』を始めて5年、驚いたこともあった。

 

「今度、社会人女性が入ってくる。ヤマネコ荘を始めた頃、女性は住まないだろうと思っていた。お風呂はユニットで、洗濯機は外だし。でもここにくる子は『全然いいです。面白いですね。』という感じで来てくれる。そういう人達を集められればいいなと思っています。」

 

 

 

『ヤマネコ荘』でしかできないことを入居者に提供する

 

「卒業した大学生には、『1人暮らしだったらできなかった経験がたくさんできた』という声をもらった。」

 

山根さんが『この仕事は面白い』と思えた瞬間だった。

 

「町内会長の家で夜中まで酒を呑むなんてことは、そうそうないし(笑)ここでしかできない体験を入居者に提供することが、ここを続ける秘訣ですね。」

 

 

 

貸主である山根さんはどのようにして入居者との距離を縮めているのか。

 

「入居時に、家について何度も打合せをする。従来は関係性がとても希薄であるはずの大家の僕とは、それで友達になれる。物の選び方とか、この子はこういう趣味嗜好を持っているんだなとか、すごくよく分かります。」

 

 

距離が縮まっている分、住人とのトラブルも少ない。

 

「建物が古いので設備に色々と不具合は生じるのだけど、本当に何のトラブルもない。こちらも迅速に対応するけど、住人も軽いノリで声をかけてくれる。普通のアパートではクレームですよね。でも数年かけて作ったコミュニティがあるのでお互いめちゃめちゃ楽です。」

 

 

 

住人同士も ”異文化交流” を楽しんでいるようだ。

 

「社会人は大学生を弟妹のように見ていると思う。意外と大人って、大学生と関わる機会がないから『新鮮だわぁ!』ってなるんだと思う。ある程度歳をとってくると、自分を頼ってくるような人懐っこい学生は可愛いらしく思えてくるのかなと。」

 

「年に一度の会を除いては、ヤマネコ荘のコミュニティに参加することを強制していません。付き合いが悪いと言われることもない。強制されると嫌な場合もあるからゆるくやっています。」

 

「納涼祭など地域のイベントには、基本的に出るよう伝えています。イベントの重要なポジションについたりもします。運動会で『20代の男子が足りないから来て!』と言われたら、行ける人が行って走ったり。それで両隣と関係性がつくれる。」

 

地域の行事に参加することなど一定のルールを定めることで、近隣の方との関係を保っている。

 

 

 

山根さんは、住むことへの選択肢を広げたい、と話す。

 

「今の学生は家に『居る』だけになってしまっていると思います。寝るだけとか。日常に変化があるから刺激にもなるし、面白いと思うんですよね。『居る』というありがちな選択肢や空間をアレンジして『暮らす』という概念にすれば思い出にも残るんじゃないかと。」

 

 

第二・第三の『ヤマネコ荘』を

 

山根さんは次の目標を語ってくれた。

 

「今は大学生が中心の湖山がベースなので、次は鳥取市街でも展開していきたい。」

 

「ファミリー向けも面白いと思っています。集合住宅の形式にこだわらなくても、人口減少によりこれから空き物件は増えていくので。建て替えるよりも使いたい人を探す方が経済的だし効率的だと考えています。」

 

 

 

また、今後の課題として大学生が継続的に入居してくれるような環境づくりや、そのための発信ツールが必要だと山根さんは言う。

 

「SNSを使って発信しようとしてたけど、なかなか余裕がなくてできなかったりする。箱はできたし、住んでいる人も同じ方向を見てくれている。あとは、住むことへの選択肢を増やしてもらうための発信が必要ですね。」

 

 

ひとつとして同じ物件はない

 

最後に山根さんは『仕事において失敗は避けられない』と話してくれた。

全く同じ状況の不動産は存在しないからだ。

 

「土地の大きさ、前の道路の太さ、間取り、構造等々。『これを買おう』と思ったとき、ゼロから調べを付けて、何もミスをしなかった物件はひとつもない。見落としたとか、調査が抜けてたとか。」

 

 

 

それは貸主と借主の関係においても同じだという。

 

「全員と100点満点の関係は築けない。再起不能にならなければ失敗ではない。ミスは当たり前。」

「ミスした瞬間のリカバリー能力はとても大事。ミスしたときの次の一手をどうするかだね。」

 

 

 


 

 

大手企業が手を付けないニッチな市場に活路を開く、山根さんに刺激を受ける人は多いのではないだろうか。

山根さんの挑戦はこれからも続く。

 

 

 

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